阪神・淡路⼤震災1995年(平成7年)1月17日より
阪神・淡路大震災では、震災による死亡として5,488人が記録されておりますが、全体の86%の4,732⼈が、家屋倒壊が原因で亡くなったと考えられます。焼死・熱傷の504⼈も倒壊した家屋から逃げられなかったことが原因だと推察されます。死亡⽇時は、95%弱の5,175⼈が17⽇当⽇で、うち午前中が4,461⼈となっており、多くの⼈が即死に近い形でした。このことから、消防や⾃衛隊の救出で命を救えた⼈は多くないこと、強い揺れに対して⼈的被害を減らすには耐震化しかないことが分かります。
⼀般建築物の耐震基準の変遷
1950年に導⼊された建築基準法では、数⼗年に1度発⽣する中地震に対しては建築物が ほとんど損傷しないという設計法が取り⼊れられました。これは、1925年に市街地建築物法に導⼊された耐震基準に準拠しています。その後、1968年⼗勝沖地震で鉄筋コンクリート造の被害が多数⽣じたことから、1971年に粘り強さとせん断強度を確保するため柱の帯筋の基準が強化されました。また、新耐震設計法の開発が⾏われました。ですが、1978年に発⽣した宮城県沖地震でも、⼗勝沖地震と同様の被害が⽣じ、とくにピロティ形式や偏⼼の著しい建物の被害が顕著だったことから、1981年に新耐震基準が導⼊されました。ここでは、⼤規模な地震動に対しても空間を確保するよう、2次設計が導⼊されました。
耐震改修促進法の制定
耐震基準は、不遡及の原理によっており、建物を建築したときの基準に適合していれ ば、現⾏の耐震基準を満⾜しなくても合法です。現⾏の基準を満⾜しない建築物を「既存不 適格建築物」と⾔いますが、阪神・淡路⼤震災では、「既存不適格建物」の被害が顕著でした。このため、震災後、1995年に建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)が制定されました。ここでは、多数の者が利⽤する建築物への指導・助⾔、指⽰や、耐震改修計画の認定制度などが定められ、建築物の診断・改修に係る補助制度も作られました。さらに1998年には住宅の診断に係る補助制度が、2002年には住宅の改修に係る補助制度が作られました。2005年にはこれらの補助制度を統合した住宅・建築物耐震改修等事業が作られました。
耐震改修促進法の改正と耐震改修促進計画
21世紀になって、内閣府に移管された中央防災会議が、東海地震、東南海地震・南海 地震、⾸都直下地震などの被害想定結果を公表し、被害軽減のため、耐震化の重要性が再確認されました。2004年には新潟県中越地震も発⽣しました。このため、2006年に耐震改修促進法が改正されて、耐震化率の⽬標を明⽰した耐震改修促進計画の策定などについて規定が加えられました。この結果、2018年時点で、全市区町村のうち97.7%が耐震改修促進計画を策定しています。
⼤規模な建築物等の耐震診断の義務付けと公表
その後、2007年新潟県中越地震、2008年岩⼿宮城内陸地震、2011年東⽇本⼤震災な どが発⽣し、南海トラフ巨⼤地震の被害想定結果も公表され、2013年に再び耐震改修促進法が改正されました。多数の者が利⽤する⼤規模な建築物等の耐震診断の義務付けや結果の公表、住宅や⼩規模建築物への指導や助⾔についての規定が加えられました。これに合わせて、多数の者が利⽤する⼤規模建築物等の診断・改修に、国が重点・緊急⽀援する耐震対策緊急促進事業が創設されました。
要緊急安全確認⼤規模建築物と要安全確認計画記載建築物
延べ⾯積5,000m2以上の病院、店舗、旅館等を「要緊急安全確認⼤規模建築物」と称 し、これまでに計約11,100棟について耐震診断結果が公表され、耐震性が不⼗分なものが約1,800棟あることが分かりました。また、地⽅公共団体が指定する緊急輸送道路等の避難路沿道建築物や、都道府県が指定する庁舎、病院、避難所等の防災拠点建築物を合わせて「要安全確認計画記載建築物」と称し、避難路沿道建築物については18都府県71市町村において対象道路が指定され、東京都の⼀部、⼤阪府、4市から診断結果が公表されました。また、防災拠点建築物については、35道県が対象建築物を指定し10県が診断結果を公表しています。ただし、個⼈情報の問題もあり、公表は影響の⼤きな建築物に限られています。
ブロック塀の除却と改修
2016年熊本地震や、2018年⼤阪府北部地震での多数のブロック塀の倒壊を受けて、 2018年に耐震改修促進法の施⾏令が改正され、地⽅公共団体が計画に位置付ける避難路沿道の⼀定規模以上のブロック塀などの耐震診断の義務付けが⾏われました。合わせて、住宅の改修などにパッケージ⽀援する制度の拡充やブロック塀等の除却・改修等に対する⽀援制度が創設されました。
⾼い耐震化率の⽬標
このように、被害地震を経験する中で、耐震化の制度が強化・拡充されてきました。 2003年には、東海地震、東南海・南海地震の地震防災戦略として、75%だった耐震化率を2013年までに90%にする⽬標が掲げられました。ですが、2013年時点の耐震化率は、住宅が約82%、多数の者が利⽤する建築物が約85%に留まっています。同年に策定された南海トラフ地震防災対策推進基本計画では、2020年までに少なくとも耐震化率を 95%にすることを⽬標とし、2025年までに耐震性が不⼗分な住宅をおおむね解消することを⽬標に定めました。2016年に閣議決定された住⽣活基本計画でもこれが踏襲されています。
なかなか進まない耐震改修
実は、耐震化率の向上の殆どは、建て替えです。新耐震基準が導⼊されてすでに39年 が経ちます。建物の平均寿命を50年とすれば、毎年2%ずつ耐震化率が向上して、78%が耐震化されたことになります。ですが、早稲⽥⼤学の⼩松幸夫先⽣の研究によると、⽊造住宅の寿命は、1997年には43年強だったものが、2006年には54年、2011年には65年と伸びているようです。このため、耐震化率の改善が伸び悩みます。
さて、阪神・淡路大震災から25年となる2020年は、コロナ禍でそれどころではなくなってしまいました。耐震化95%の達成はできていません。国難と想定される南海トラフ地震や⾸都直下地震などを前に、残念ながら未達成になりました。