マンションの寿命

オーナーの皆さんも、建物が30年を超えると、どのくらい持つのだろうと心配になってくることでしょう。鉄筋コンクリート造で堅牢なイメージのあるマンションですが、それでも年を追うごとに建物や設備は⽼朽化し、やがてその“寿命”を迎えることになります。

耐用年数

耐用年数という言葉がありますが、一般的に使われる「耐用年数」は寿命を指しておりますが、それと別に税法上に「耐用年数」という言葉があり、こちらは「法定耐用年数」と使うこともあります。
「減価償却資産の耐⽤年数等に関する省令」で、鉄筋コンクリート造の建物の耐⽤年数は 「47年」と規定されています。この数値は、建物が減価償却をする耐⽤年数のことで、「税法上、マンションの価値は47年で0円になる」ということを意味しております。この減価償却の計算に使われる建物の耐⽤年数は、建物の構造や⽤途によって異なっており、例えば、⼾建に多い⽊造は22年と定められています。住宅⽤の鉄筋コンクリート造の耐⽤年数は、かつては 60年とされていましたが、1998年に改定されて、現⾏の47年になりました。どうして「47年」という数値になったのかというと、1998年当時に件数は少ないが取り壊されたマンションの平均寿命が46年だったからだそうです。

寿命

マンションの寿命は、人が住めなくなるまでの期間となります。2020年(令和2年)4月1日時点、日本で建て替えが完了したマンションの数は「254 件」です。建て替えの理由は必ずしも寿命ではなく、再開発等が要因であることも考えられるため、これまでに「寿命を迎えた」と判断されたマンションがいかに少ないかがわかります。
日本でマンションが建設されるようになったのは、1960 年代後半から。今あるマンションのほとんどは、築 50 年を迎えていません。つまり寿命を迎えたマンションの事例は圧 倒的に少ないのです。
⽇本で初めて作られた鉄筋コンクリート造の建造物は、1911年(明治44年)竣⼯の三井物産横浜ビル(現・KN ⽇本⼤通ビル)で、現在も使われています。関東⼤震災や横浜⼤空襲を耐え抜いたことで、鉄筋コンクリート造の堅牢さを証明する存在といえると思います。

コンクリート

一般的にコンクリートそのものの寿命は、50年~60年といわれていますが、それを100年に伸ばした劣化しにくいコンクリートが開発されています。通常のコンクリートと違いは、水とセメントの分量です。100 年コンクリートは、通常のコンクリートに比べて水の量を少なくしています。水分を減らすことで、コンクリートの寿命100年に伸ばすことに成功したのです。ただし水分が少ないとヒビ割れが起こりやすくなり、それを回避するために高度な特殊技術を必要とします。そのため通常のコンクリートと比べて製造コストがかかることが難点ですが、画期的な技術革新だといえます。最近では、さらに技術開発が進み、100年にとどまらず、200年やそれ以上耐久するコンクリートが開発されているようです。

配管設備の設置方法

古いマンションでは、給水管や排水管、ガス管などの配管設備がコンクリートの 中に埋め込まれて取り換えられない構造のものが多くあります。配管設備の寿命は、コンクリートよりも短く25年~30年。配管設備を取り換えられないために、結果的にマンションそのものの建て替えを余儀なくされるケースもあります。
現在では、マンションの寿命を伸ばすために配管設備をコンクリートに埋設しない「スケルトン・インフィル」という工法が主流になっています。スケルトン・インフィルとは、建物を構造体(スケルトン)と内装・設備(インフィル)に分けて設計する工法です。配管設備をコンクリートに埋め込むの ではなく、パイプスペース(PS)を設け、その中に配管設備を集中配置することで、構造体を壊すことなく、配管設備の修理や更新ができるようになりました。スケルトン・インフィル工法を採用すれば、配管設備や内装設備を適宜更新することで、マンションの寿命をコンクリートの寿命まで伸ばすことができます。

耐震基準

「旧耐震基準」(1981年5⽉31⽇までの建築確認において適⽤された基準)では、中規模の地震(震度 5強程度)に対して、建物がほとんど損傷しないという想定で設計されていました。それを上回る⼤規模な地震(震度6程度)に対しては検証されていなかったため、阪神・淡路大震災では、大きな被害が出ました。
そこで、1981年(昭和56年)6⽉1⽇以降の建物に適⽤されている「新耐震基準」では、震度5程度の地震では「軽微な補修で使い続けることができる」、震度6の地震でも「建物が倒壊しない」、つまり⼈命に危害を 及ぼすような被害が⽣じないようにする、というように、構造の基準が引き上げられています。
そのため、旧耐震基準の時代に建てられたマンションは、新耐震基準に合致する耐震性が確保されているかどうか、耐震診断を⾏うことになります。診断結果次第では、⼤規模な耐震補強⼯事が必要になり、マンションの建替えを検討しなければならなくなります。

プラン

建物構造的なことだけでなく注意しなければならないのが、プランや間取りです。中居間の間取りやユニットバスは、生活様式が変化した現代では非常に嫌われます。建物の広さ等に余裕があれば、タイミングを計ってリノベーションするべきでしょう。
また所有者が自用で作った事務所や店舗等も、使用されなくなり、立地に見合っていない場合は、賃貸人が見つからないケースがあります。この場合にリノベーションするには、用途変更等の法律的な変更もする必要があり、容易ではありません。
どちらの場合も、リノベーションが難しい場合には、建替えや組換えの検討をお勧めします。

このように、マンションはそれぞれ異なる要因を持っていますので、実際の耐⽤年数を考える場合に、各マンションを⼀律に扱うことはできません。さらにオーナーのライフイベントや経済的な面も考慮に入れて考える必要があります。SDGSが叫ばれる現代においては、安易なスクラップアンドビルドにならないよう、建物の維持管理への配慮が大切になります。