1、相続税
日本では相続税は累進課税で世界的にみてもとても高い税率となっています。
相続税の税率速算表
相続による取得額 | 税率 | 控除額 |
1000万円以下 | 10% | ― |
3000万円以下 | 15% | 50万 |
5000万円以下 | 20% | 200万 |
1億円以下 | 30% | 700万 |
2億円以下 | 40% | 1700万 |
3億円以下 | 45% | 2700万 |
6億円以下 | 50% | 4200万 |
6億円超 | 55% | 7200万 |
基礎控除:3000万+(600万×法定相続人の数)
死亡保険金等控除:500万×法定相続人の数
2、相続評価における不動産
相続税の計算において不動産は時価(売却した場合の価格)よりも低い相続税評価額を使うこととなっています。相続税評価額は土地が時価の8割程度、建物が時価の5、6割程度と言われています。よって同額の金融資産と比べて合法的に節税できるのです。さらに特例もあります。
3、賃貸不動産
不動産のうち自宅等の自己使用でなく賃貸に出している場合はさらに相続税評価額が減額されます。
土地賃貸:相続税評価額-(相続税評価額×借地割合×借家割合×賃貸割合)
建物賃貸:固定資産税評価額-(固定資産税評価額×借家割合×賃貸割合)
借地割合:国税庁の路線価図により指定
借家割合:30%、賃貸割合:入居比率
4、小規模宅地の特例
受け継がれる土地を相続により手放さなければならない状況に陥ることを防ぐ目的で制定されており、相続税評価額の大きな減額ができるため高い節税効果があります。詳細の要件はここでは割愛しますが、要件に該当した場合には下記の通り高い相続税評価額の減額が可能となります。
貸付事業以外の事業用地では400㎡まで評価額を80%減額
貸付事業用地では200㎡まで評価額を50%減額
居住用地では330㎡まで評価額を80%減額
5、所有している土地の活用
すでに所有している土地がある場合には、そのまま相続するよりもアパートやマンションなどの賃貸物件を建ててから相続したほうが相続税は節税できます。建築会社が相続税の節税を謳い文句に営業してきますが、その土地が賃貸事業として向いているのかどうか、特に郊外や駅遠い立地では周辺の物件に空きが多くないか慎重に吟味するすることが必要です。もしその土地が賃貸事業に向いていない場合には、資産の組換えとしてその土地を売却し賃貸事業に向く不動産に組替えることにより、相続対策と収益性を高める検討をしましょう。賃貸事業に向かない土地は今後も下落する可能性が高いように思います。
6、不動産投資
相続対策のための不動産投資は評価圧縮によって有効なことは上述の通りあきらかです。不動産投資にローンを使う場合にはさらに相続財産からローンの金額が差し引かれ相続税評価額が減ることになります。金融機関では相続税対策をメインとした投資には慎重です。意図的な借入金による不動産購入は相続税負担の公平性の観点から否認される可能性があります。
7、不動産投資における物件選びのポイント
購入後数年経って当該不動産を売却するときに価格が下がっていたら、評価減額の効果は消えてしまいます。よって相続対策に成功するか否かは物件選びにかかっています。そのポイントは下記4点です。
1. 価格が下がりにくい、価格が上がる可能性がある
不動産の価格は人気投票的な側面があります
anser:人口が増えているエリア、人気のエリア
2.流動性が高い
売れにくい物件はいざ売る時は理論価格よりも価格が下がる傾向にあります
anser:交通利便が良い、2線利用、駅から10分以内
3.時価と相続税評価の乖離が大きい
節税効果が大きい物件を選びましょう
建物比率の高い不動産が評価圧縮率が高いです
anser:高容積のエリアで階数の高い建物
4.長期保有できる、無理のないローン設定
短期で売却すると相続対策と認定され課税される可能性があります。
今後金利が多少上がっても、毎年内入れをすることなく運用できること
anser: RC造およびSRC造=耐用年数47年と長い
このような物件はすでに価格が高いです。現在(2024年7月時点)の相場では、新築で表面利回り4.0%前後、築年があるものでも4.5%程度の利回りとなります。購入においては自己資金の比率をよく吟味してください。
よりアグレッシブに利回りの高い郊外や築年の古い物件を検討するのもアリですが、リスクをよく理解し、さらに今後リスクが大きくなることも考慮に入れて進めてください。いずれにしろ物件ごとに慎重な調査検証が必要です。
8、タワーマンション
タワーマンションは以前「タワマン節税」として、高層で戸数が多いため土地の共有持ち分がとても低く建物比率がとても高いこと、相続評価上は下層階と上層階に差がないことにより特に高層階は時価との評価差が大きくなるので人気となりました。2024年1月よりマンション1室の評価額を時価の6割に引き上げられました。よって節税効果が無くなったわけではないですが、以前ほどの効果はなくなりました。
9、敷地延長土地のアパート
不整形地補正により最大40%減額することができます。また販売価格も整形地よりも低く押さえられていることも多いと思います。ただこのような物件は建物が古くなると土地価格と同等になるので価格の下落も早いです。よってお薦めできません。
10、一棟のビル・マンション
ではどのような不動産がよいかというと、当社では一棟のビル・マンションをお勧めしています。区分マンションと違うのは収益力と所有者単独で差配できることです。収益力は新築で区分マンションと一棟マンションを比較すると、区分マンションのネット利回りは概ね2.0%くらいで一棟マンションは概ね3.0%くらいと5割くらいの差が出ます。不動産は長期投資ですからこれは大きな差となっていきます。区分マンションの場合、管理組合の合意により管理費や修繕費が決まりますので、賃貸収入が修繕維持費の値上げ等により急に減ってしまうことがあります。一棟マンションでも修繕費等はかかりますが、施工を行う時期や程度を自身で差配できます。
11、相続対策後
相続時に不動産を使って相続対策をした場合には、相続税申告後3年以内に不動産を売却すると税務調査で問題視される可能性があります。2018年4月以降に貸付を開始した宅地の場合には、貸付から相続までに3年以上の期間がないと「小規模宅地の特例」が適用されません。意図的な相続対策と疑われないためには、相続した不動産を3年以上保有するなど、売却のタイミングを慎重に見定めることが必要です。
不動産は購入時点より長期保有をすることを前提にして、維持費の設定、空室のリスク、借入金の金利上昇の可能性等をよく検討して相続対策を行うことが重要です。
12、賃貸業の法人化
所有地に賃貸物件を建てた場合も、不動産投資を行った場合も、賃貸事業の法人化については検討をしてみてください。法人化することのメリットは所得の分散化です。デメリットは税理士費用等のコストと出口戦略です。将来の出口戦略としては法人化した会社を相続する、法人として売却する(M&A)、不動産を売却して会社精算するという3つの方法があります。不動産を売却しその後会社精算する場合は不動産売却益に税金がかかり、さらにのこった現預金を個人に退職金等で支払う際にまた税金がかかり大きなコストとなります。M&Aでは株という金融資産としての売却になり1回の税金ですみ節税となります。M&Aも一般的になりましたので活用する方が増えております。
13、オーダーメイド対応が必要
お客様により資産の種類や規模、相続人、および考え方も様々かと思います。よってお客様に対し、オーダーメイドの対応が必要になります。税金の相談では税理士を、物件選びでは信頼できる不動産会社を味方につけるべきです。