古ビル火災

『古ビル火災』

2021年12月17日大阪・北新地で発生した雑居ビル火災は、25人の死者を出す大惨事となりました。
一義的には心に闇をかかえた放火犯による殺人事件でした。捜査関係者によると、容疑者はエレベーターで来院し、非常階段の付近に放火した疑いがある。唯一の避難経路が炎や煙でふさがれ、居合わせた人たちが逃げ場を失った可能性が高い。
事件の現場となった堂島北ビルは昭和45年に建てられた。鉄筋コンクリート造り8階建てで大通りに面し、奥に細長い構造になっていた。4階クリニックはエレベーターを上がると、待合室や受付のスペースがある。患者らはそこで待機後、奥にある診察室などに進む仕組みだったとみられる。

建築基準法は現在、3階建て以上で延べ面積500㎡以上の建物に排煙設備の設置を義務付けている。6階建て以上になると、地上に通じる階段を2カ所以上設けなければならない。2つの規定はそれぞれ1971年と74年に設けられ、それ以前に建てられたビルは適用の対象外だ。70年に建築された堂島北ビルのように、違法でなくても現在の基準を満たさない建物は「既存不適格」と呼ばれる。同ビルは火災報知器や消火器、誘導灯などの設備を備え、消防法上の不備もなかった。スプリンクラー設置が義務付けられている11階以上のビルに当たらなかった。

総務省消防庁によると、階段が1カ所で、3階以上に不特定多数の人が出入りするビルは全国で約3万棟について、立ち入り調査をするよう全国の消防に指示した。避難経路や消火器の設置状況などを確認し、結果をもとに対策を議論する。(2021年12月)

神戸大都市安全研究センターの北後明彦教授(防火避難計画)は「複数の避難経路や排煙設備があれば被害を抑えられた可能性がある」と指摘。「不適格ビルの所有者は建替えや改修を視野に入れ、行政も不適格ビルの実態を調査し、改修費用の支援などの仕組みを検討すべきではないか」と話す。(2021年12月)

現在の基準に基づく排煙設備が効果を発揮した例もある。2013年に兵庫県の宝塚市役所で起きた放火事件では、男がまいたガソリンに引火後、職員が迅速に排煙窓を開けて煙を逃し、犠牲者は出なかった。

あなたがビルオーナーであったら、いくら法的に認められている建物により法的責任や民事の責任が降りかかってこなかったとしても、道義的には責任を感じることになるでしょう。やはり古いビル、特に旧耐震ビルや既存不適格ビルには、早め早めの対処が肝要と思います。

過去の古ビル火災事例
・金井ビル火災
1966年1月9日、神奈川県川崎市で発生。死者12人、負傷者14人におよぶ被害を出した。
・千日デパート火災
1972年5月13日夜、大阪府大阪市南区(現・中央区)難波千日前で発生。人的被害は死者118人・負傷者81人におよび、日本のビル火災史上、最大の惨事となった。デパートと名乗りながら、実態は多数のテナントが入   居する雑居ビルであった。当該ビルは、1932年に建てられた古い建築物であったことから、建物に度重なる改修を加えて使用しており、火災発生当時の建築・消防法令に対して既存不適格の状態で法令の遡及適用を免れていた。この火災を機に1972年12月に消防法施行令が、また1973年8月には建築基準法施行令が改正された。
・第6ポールスタービル火災
1973年5月28日、東京都新宿区歌舞伎町で発生。死者1人を出したが、負傷者は出なかった。
・今町会館ビル火災
1978年3月10日、新潟県新潟市で発生。死者11名、負傷者2名におよぶ被害を出した。
・武富士弘前支店強盗殺人・放火事件
2001年5月8日、青森県弘前市で男性K(当時42歳)が放火し発生。死者5名、負傷者4名。
・歌舞伎町ビル火災
2001年9月1日、東京都新宿区歌舞伎町で発生。死者44名、負傷者3名におよぶ被害を出した。雑居ビルの問題点が明らかになった。
・那覇風俗店火災
2007年10月14日、沖縄県那覇市で発生。死者3名を出した。
・大阪個室ビデオ店放火事件
2008年10月1日、大阪府大阪市浪速区で男性O(当時46歳)が放火し発生。死者16名、負傷者9名におよぶ被害を出した。
・大阪此花区パチンコ店放火殺人事件
2009年7月5日、大阪府大阪市此花区で男性T(当時41歳)が放火し発生。死者5名、負傷者10名におよぶ被害を出した。
・広島ビル火災
2015年10月8日、広島県広島市中区で発生。死者3名、負傷者3名におよぶ被害を出した[3][4]。
・大宮風俗ビル火災
2017年12月17日、埼玉県さいたま市大宮区で発生。死者5名、負傷者7名におよぶ被害を出した。1965年に建てられた老朽建築物で、風俗店の老朽化などが問題視された。
・徳島市雑居ビル放火事件
2021年3月14日、徳島県徳島市の雑居ビルでご当地女性アイドルグループのライブ中に男性O(46歳)が放火。
・大阪市北新地ビル火災
2021年12月17日、大阪府大阪市北区曽根崎新地で男性T(61歳)が放火し発生。死者26名(男性T含む)、負傷者2名におよぶ被害を出した[5][6]。1970年に建てられた既存不適格建築物で、8階建にも関わらず階段は1箇所しかない。